悪性骨軟部腫瘍の治療の流れ - 外科的治療(手術)

 骨肉腫などの悪性骨腫瘍に対しての治療は、1980年頃まで切断術が主流でした。1980年代より、強力な化学療法(抗がん剤)の治療が始まり、腫瘍のサイズを縮小できるようになったため、患肢温存手術(手、足を残した手術)が可能となってきました。また、CTやMRIなどの画像診断の進歩により、腫瘍の伸展や周囲組織への浸潤の有無などが正確に評価可能となったことも患肢温存手術が広まった理由のひとつです。現在、岡山大学では、ほぼ全例に患肢温存手術を行っています。腫瘍が巨大で神経や血管に浸潤している場合などに限り切断術を選択しています。
 安全に腫瘍切除術を行うためには、広範切除術を行う必要があります。広範切除術とは、悪性骨腫瘍の病巣部位を切除するだけではなく、腫瘍周囲にある軟部組織(脂肪、筋肉、時に血管や神経)を合併切除することで、安全にかつ確実に(再発の可能性を低くして)悪性骨腫瘍を切除する方法です。現在では、切断術と患肢温存手術の再発率は、ほぼ同等と考えられています。
 患肢温存手術で「手(上肢)」、「足(下肢)」が残せるようになりましたが、広範切除術によって切除された組織に対して、何かしらの追加手術が必要になります。悪性骨腫瘍切除術では、通常、10〜15cmくらい骨を切除する必要があります。時に、大腿骨全長や上腕骨全長を切除することもあります。また、骨切除だけでなく周囲の筋肉を合併切除するため、関節を動かすことができなくなります。このように、広範切除術後では、残った手や足をより良く使えるようにする必要があり、このための追加手術を再建術と言います。岡山大学では、患者さんのより良い術後の状態を確保するために、いろいろな再建術の工夫を行っており、以下に紹介します。また、術後悪性と判明した場合も、早期に追加広範切除を行えば局所再発率、転移率は初回広範切除を行った症例と予後に差がありません。このような初期対応が成功しなかった患者様も積極的に治療しています。

1.メッシュによる軟部組織再建を併用した人工関節置換術
 広範な骨欠損に最も簡単な再建法が人工関節置換術と考えています。切除した骨とほぼ同じ形をした金属製の人工関節を、膝関節、股関節、肩関節、肘関節に挿入して再建を行います。通常の人工関節置換術とは異なり、悪性骨腫瘍切除術後では広範切除することにより周囲の筋肉などを合併切除するため、関節での安定性の問題が生じます。脱臼しやすくなりますし、関節を動かすことにも障害が出ます。腫瘍切除後に使用する人工関節には、これらの問題を解決するために筋肉などの軟部組織を結びつけるための穴が開いています、金属に直接結び付けても生物学的に生着しません。岡山大学では、1997年より、人工関節周囲に生体親和性のある特殊なメッシュを使用して、関節の安定性と可動性を獲得する再建法を考案し、今まで行ってきました。現在では、岡山大式としていくつかの施設でも同様の手技が用いられてきています。「関節の安定性」と「より良い関節可動域」の両者の効果が同時に獲得できる良い方法として、世界的にも同様の方法が行われています。
2.放射線処理骨、加温処理骨
 悪性骨腫瘍がある骨を再利用する方法です。一度切除した骨を、また同じところに戻して再建します。しかし、腫瘍がある骨を戻してしまうと切除したことになりませんので、一度切除した骨の腫瘍細胞を不活性化(腫瘍細胞を殺す)した後に、同じところに戻して再建します。腫瘍細胞を不活性化させるために、放射線(放射線処理骨)をかけたり、煮沸(加温処理骨)したりします。腫瘍細胞が死滅する処理ですので、正常な骨細胞も死滅してしまうことが、この再建法の欠点です。そのため、血の通った生きた骨の同時移植術などを併用して、死滅した骨を早く正常な骨に再建するなどの工夫を行っています。
3.マイクロサージャリー(微小外科手術)を用いた再建法
 いわゆる顕微鏡を使用しての手術です。岡山大学形成外科と共同手術を行い、マイクロサージャリーを用いた再建術を行っています。広範切除術によって欠損した皮膚、筋肉を、他の部位から採取した皮膚、筋肉、神経を血管付きで移植することによって再建します。最近では、スーパーマイクロテクニックを用いて、採取してくる部位の障害を最小にして行う手術法も行っています。

以上の再建手術の他にも、岡山大学では骨延長術や回転形成術(2003年TBSで紹介されました)など、さまざまな再建方法を今まで行ってきました。悪性骨腫瘍の外科的治療(手術)では広範切除術を行う必要があり、骨や筋肉を大きく切除するためにどうしても術後の「手(上肢)」や「足(下肢)」にはある程度の障害が予想されます。前述しましたが、尾ア敏文教授をはじめ、岡山大学骨軟部腫瘍治療グループのスタッフは、海外の主要な骨軟部腫瘍治療センターで実際に医師として治療した経験があります。日本だけでなく海外でのさまざまな再建法に関しての知識もありますので、いろいろな治療法を考慮して患者さんにベストな治療法を選んでいます。岡山大学では、個人個人の患者さんに応じた適切でなるだけ障害の残りにくい手術法を考えて治療しています。

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